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Japan Culture
私の好きな”かたちと風景” ⑧YVAN.
私の好きな”かたちと風景” ⑧YVAN.
YVAN.は、2019年3月オープンの美容室 (三鷹駅南口徒歩1分) である。今回は、設計を担当した株式会社アラキ+ササキアーキテクツの荒木源希さんと、YVAN.のオーナーの原口幸樹さんにお話を伺った。
コンパクトなスペースの中で、原口氏の要望を実現し、予算と機能を満たしながら、空間に創造を加えるという課題を解いている。原口氏の要望は、大きな鏡を納めたい、利用者が落ち着ける空間にしたい、モルタルのグレーと木材の柔らかな茶色を基調にしたいという点であった。改修は、既存のガラスファサードを活かし、天井高を維持する方針とした。デザインは、素材を限定し、シンプルな中に存在感を与えつつ、落ち着いた空間にする方針にしている。
既存のファサードを残したのは、町の一部として存在してきた歴史を継承することで、路上を歩く人々に必要以上の強い興味を与えない配慮が意識されている。美容師と向き合う利用者への配慮である。
室内には、ファサードと鏡の周囲に黒いフレームが納まる。ファサードのフレームは、骨格として新たな空間を支え、鏡のフレームは利用者と美容師を映す鏡の額縁となる。既存のファサードに寄り添うように、内側にフレームを納めて新たな表情をつくり、既存のガラスと新しいフレームの積層には歴史の積層を重ねている。ファサードのフレームは、鏡へと連続することで室内へと誘われていく。矩形のフレームは知的な印象を与え、空間に一定の緊張感を発している。ファサードのフレームには、座る利用者の視線位置でガラスのサインが納められている。外からの視線は、風景の映り込み、無意識にフレームを目で追うことによる多少の拡散、サインとファサードのガラスの積層がやわらげている。北向きのファサードからは一日中柔らかい陽が差し、大きな鏡には外部の様子が映り込み、室内へと繋がり、空間に広がりを与える。
原口氏は、三鷹駅南口は少し古い町の印象があるが、カフェに間違われるような素敵な場になったので、こだわりのある空間が町に広がっていくきっかけになればと話す。また、「空間の魅力は、お客様が求める要素のひとつです。おしゃれな空間に、おしゃれな美容師がいて、おしゃれな髪にしてくれる。これが大切です。」とも話す。美容師にとっては、カットするフォーム、髪への触れ方を含めてデザインで、そのことを利用者に見てもらうためにも大きな鏡は必要であったという。美容師と利用者を映す空間の主役ともいえる鏡を見守るフレームは、美容師と建築家の役割を映しているようでもある。
荒木源希さん(左)と原口幸樹さん(右) <著者撮影>
YVAN.
東京都三鷹市下連雀3-45-14-1F
TEL. 0422-70-1030
All Photo by 樋口晃亮 Kohsuke Higuchi
博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura
受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか
静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。
主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/