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Japan Culture

2020.05.18 | 建築

私の好きな”かたちと風景” ⑲町田薬師池公園と古民家

私の好きな “かたちと風景”
⑲町田薬師池公園と古民家

民家園は、公園などに身近な古民家を移築し、日常的に触れてもらうことで、昔の暮らしを感じてもらうための施設である。町田市の町田薬師池公園は、子どもが古民家に触れるにはいい場所のひとつである。公園は、東京都指定名勝福王寺旧園地で、園内の旧永井家住宅は国重要文化財、旧荻野家住宅は都指定有形文化財である。隣接して町田リス園があるので、子どもは触れやすいという利点がある。

旧永井家住宅は17世紀中後半に建てられた古民家で、昭和49年度に現在地に移築された。東京都では、最古の部類に属する農家建築とされている。平面は広間型三間取りで、ヒロマとヘヤは竹のスノコ敷き、客間のデイは板敷きである。竹のスノコ敷きを見るだけでも一見の価値がある。建築史では、古民家の平面は、土間と一室という構成に始まり、土間に面して大きな広間をとった広間型三間取りへと移行し、後に広間を前後に仕切る四間取りへと変化すると考えられている。そのため、旧永井家は古式の平面と考えられる。壁は土壁で、柱を表に見せる真壁造である。

旧荻野家住宅は、江戸末期に建てられた医院を兼ねた住まいで、昭和49年に現在地に移築された。壁は白い漆喰壁で、基礎に回る土台は太く、構造を強固にする意識が見られる。土台は、地面との境にしっかりと存在するので、基礎が建物を支える力強さを感じられる。屋根は頂部に三角形が現れる入母屋造である。入母屋造は、寺院の本堂などで用いられたため、一般農家に多い旧永井家の寄棟造に比べて、立派で格式が高く見える。間取りでは、土間の数に特徴がある。近世の古民家で、土間が正面と背面の二箇所にあるのは不思議である。表側の土間は、正面に加えて側面からも入ることができるのも珍しい。民家の土間は、1箇所で作業や炊事の場を兼ねるのが一般的だが、表側の広い土間は炊事や作業の場を兼ねた様子がない。この土間はチョーゴザシキと呼ばれる診察室に繋がるので、医院を訪れる人々の待合の場として使用されたのだろう。

民家の座敷にはあがれないが、子どもはかくれんぼをしたり、柱に触れたりすることができる。子どもが古民家を身近に感じられる環境が大切である。この環境づくりが将来の歴史文化の維持にも繋がるはずである。

古民家の見学後は、薬師池の中央にある太鼓橋で池の魚や鳥を眺めて楽しむ。一日の最後は、薬師台はにわ公園である。メインは竪穴住居をコンクリートの擬木で模した遊具である。この地域の開発で多くの遺跡が発掘されたことにちなんだとされ、遊具が住居址というわけではない。

 

 

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか
静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。
主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/

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