• TOP
  • Japan Culture
  • 私の好きな ”かたちと風景” ⑱都筑民家園と大塚・歳勝土遺跡公園

Japan Culture

2020.04.10 | 建築

私の好きな ”かたちと風景” ⑱都筑民家園と大塚・歳勝土遺跡公園

私の好きな “かたちと風景”
⑱都筑民家園と大塚・歳勝土遺跡公園

横浜市都筑区といえば、港北ニュータウンと共に発展した地域である。横浜市営地下鉄ブルーラインとグリーンラインの両方が停車するセンター北駅近くの大塚・歳勝土遺跡公園には、都筑民家園がある。民家園は、民家自体が展示物として屋外に存在しているため野外博物館と呼ばれる。子どもにとっては、古民家を身近に感じられる数少ない施設で、町の記憶を継承する貴重な施設である。

都筑民家園には、旧長沢家住宅が移築されている。旧長沢家では、頻繁に昔の暮らしを体験できるイベント(年中行事、着物着付、おはなし会など)も開催されているので参加してみてはどうだろう。

旧長沢家は名主の住宅である。名主というのは、江戸時代の村役人で、一般に庄屋などに次ぐ地位となる。建築年代は江戸中期とされ、平成9年に横浜市指定有形文化財となる。外観上、一般的に目にする農家と明らかに違う箇所がある。それは、主屋に付属する馬屋が並列し、主屋と繋がっている姿である。民家形式の一つに分棟型がある。分棟型とは、住居と土間の棟が分かれた民家を指していい、九州では住居に対して炊事の場が分棟となる場合が多い。旧長沢家は馬屋である点が特徴である。東北地方には、曲家や中門造という形式がある。簡単に言えば、住居に対して馬屋が前面に突出した平面形式である。古民家の類型では、馬屋の位置はひとつのポイントだが、別棟で横並びというのは数少ない例である。
一般農家に比べて住居部分の間口が広いのも特徴で、広い板間のヒロマに表側のナカノマとオク、背面側のヘヤとオキノヘヤの四間が配された広間型の平面である。一般には、19世紀に入り、天井を張る農家や畳を敷く部屋が増えるとされる。旧長沢家は、オクとナカノマにその様子を見ることができる。一方で同時期に一般的に見られるようになる大黒柱は見られない。


都筑民家園のある大塚・歳勝土遺跡公園は、もう一つの見所がある。「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界遺産を目指す動きがあるが、この遺跡公園は都市部に近い場所で先史時代の復原住居に触れられる貴重な場である。大塚遺跡は、弥生時代中期の環濠集落を復原した公園で見応えがある。歳勝土遺跡は、住居の復原はないが、方形周溝墓群の様子を公開している。すぐ近くには横浜市歴史博物館があるので、こちらもあわせて訪れたい。港北ニュータウン周辺は、子どもに手厚い施設が多いが、大塚・歳勝土遺跡公園もまた子どもには人気の公園で、近世の民家園と先史時代の遺跡に触れながらゆっくりとした時間のすごせる場所である。

 

 

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役
二村 悟 Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか
静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。
主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010
花野果 HANAYAKA https://tatemonoxxx.amebaownd.com/

  • mixiチェック
↑