• TOP
  • ニュース
  • 「日本クリエイション大賞2024」選考結果のご報告

ニュース

2025.02.14 | TOPICS

「日本クリエイション大賞2024」選考結果のご報告

「日本クリエイション大賞」は、一般財団法人日本ファッション協会が行っている、製品、技術、芸術・文化活動、地域振興、環境、福祉など、ジャンルを問わずクリエイティブな視点で生活文化の向上に貢献し、次代を切り拓いた人物やプロジェクトなどを表彰対象とする顕彰事業です。今年度は1 0 8件の推薦案件の中から4 0 案件を懸賞制度委員会に提案。3 回の委員会での審議の結果、大賞1件と各賞として【海風の匠賞】【水素社会創造賞】【衣料から医療へ賞】の3 件を選考しました。

 

「日本クリエイション大賞2024」授賞案件

【大 賞】北川 啓介氏(名古屋工業大学大学院 教授)北川 珠美氏(名古屋工業大学 研究員)

「被災地から世界へ拡がる“希望”のインスタントハウス」

2024年1月1日16時10分、能登半島は最大震度7の地震に襲われた。
地震翌日に現地入りした名古屋工業大学大学院の北川啓介教授は、避難所に段ボール製の「インスタントハウス」を設置し、多くの被災者に、プライバシーを守り寒さを防ぐ空間を届けた。地震直後は、名古屋で工場生産体制の整備などを行っていた妻で名古屋工業大学研究員の北川珠美氏とともに、9月上旬までに屋内用約1100棟のほか、最大10人ほど入れ、寝室や生活空間として使われる防水仕様の白い素材で覆われた高さ4.3m、床面積20㎡の屋外用インスタントハウスを、175棟ほど能登半島各所に建設した。9月下旬に発生した豪雨の際も直後に、再び甚大な被害を受けた同地を訪れ、新たに75棟を建設している。
北川教授と珠美氏がインスタントハウスを開発したきっかけは、2011 年の東日本大震災にある。地震から1か月後、宮城県石巻市の避難所を訪れた際、二人の小学生の男の子から「なんで、仮設住宅が建つのに何か月もかかるの。大学の先生なら来週建ててよ」と訴えられ、その想いに応えようと決意、「安くてすぐに建てられる家」の開発に取り組んだ。試行錯誤を繰り返し、5年後、気球のように膜素材を空気で膨らませて屋根と壁を形成し、内側に空気含有量の高い断熱材を固着すると、風速80mの台風にもビクともしない簡易住宅が出来上がった。暑さ、寒さに強く、中に入ると「心が安らぐ」インスタントハウスは、国内だけでなく世界中の被災地や紛争地、難民キャンプで住まいに困る人々に“希望”を届けている。

okunai_instanthouse
地震発災直後に避難所内に設置された屋内用インスタントハウス

 

★keisuke kitagawa
北川 啓介氏

 

北川 珠美氏

 

 

【海風の匠賞】株式会社ノースセール・ジャパン

「洋上の輝きを支える最強の国産セール」

パリ五輪の混合470(よんななまる)級で日本の岡田奎樹・吉岡美穂組が銀メダルを獲得し、注目を集めたセーリング。混合級に出場した19艇のうち15艇に用いられていたのが、日本の株式会社ノースセール・ジャパンがつくったセールである。世界には多くのセールメーカーが存在するにもかかわらず、前回の東京大会では男子19艇のうち17艇、女子は21艇すべてに選ばれており、パリでも東京でも、同社のセールを用いたチームが、金銀銅を独占した。
ノースセールはもともとアメリカのセールメーカーだが、ノースセール・ジャパンはブランド名義の使用契約こそ締結しているが、セールの開発・製造は日本で独自に行っている。
ヨットのエンジンと言われるセール。デザイナーは風域、セーラーの体格などを考慮して理想的なセールカーブを想定し、コンピューター上で3Dのセールを作り上げ、それに合わせて製作する。理想的なカーブを実現するために、例えば470級のメインセールは16~18枚のパネルを縫い合わせていくのだが、それらを正確に切り出して縫い合わせていく作業には経験に裏打ちされた高い技術が必要となる。同社のセールが、世界のトップ・セーラーたちに愛され、絶大な信頼を受けている理由がここにある。

 

スペインパルマで開催された「2024年470世界選手権」3位の岡田奎樹・吉岡美帆組ノースセール・ジャパンの帆を使用/写真提供:株式会社ノースセール・ジャパン

 

 

【水素社会創造賞】アルハイテック株式会社

「富山発、廃アルミが生み出す未来の環境」

アルハイテック株式会社は、廃アルミを原料として、水素の製造に取り組んでいるベンチャー企業である。富山県の運送会社で環境事業を担当していた水木伸明氏が、「エネルギーを使って廃アルミを運び、焼却・埋め立て処分すること」に疑問を感じ、廃アルミの再利用への挑戦を決意し創業した。
水木氏はエネルギーの専門家ではなかったが、アルミ産業が盛んな富山県の工業技術センターや富山大学などの専門家からアドバイスを受け、2008年、アルミパックから紙を取り出した後、残ったプラスチックとアルミを分離することに成功。その後、「アルミそのものから水素をつくれないか」と思い付き、2013年本格的な研究開発を行うため、会社を辞め起業。2016年、独自開発したアルカリ系水溶液を用いて、二酸化炭素を出さずに、廃アルミから水素を発生させる検証プラントを完成させる。できた水素は燃料電池に送られ、発電に利用される。水とアルミがあれば「いつでも、どこでも、誰にでも」水素をつくることができる可搬型水素製造装置も開発し、水素エネルギー社会の実現を目指して事業を展開している。

紙とアルミ付プラスチックを分離する「パルパー型分離機」と水木伸明代表取締役社長/写真提供:アルハイテック株式会社

 

 

【衣料から医療へ賞】福井経編興業株式会社

「ニットの技術で守り続ける幼い命」

2024年、創業80年を迎えた福井経編(たてあみ)興業株式会社は、従業員数90名弱にして、国内最大規模の経編メーカーである。大手取引先から編み工程だけを受託する企業が多い業界の中で、購入した原糸を加工し、自主開発・販売することに力を注いできた。
同社と大阪医科薬科大学、帝人の3者で共同開発したのが、生まれつき心臓の壁に穴が開いていたり、血管が狭まっていたりする「先天性心疾患」の治療に用いる心・血管修復パッチ「シンフォリウム」である。
シンフォリウムは、体内に吸収される糸と吸収されない糸を一緒に編み込み、ゼラチンの膜で覆ったシート状の製品で、心臓や血管に用いると、ゼラチン膜が体内の組織と置き換わりながら分解され、身体の成長に合わせて伸張する。これによって患者の成長に伴って再手術するリスクが低減され、患者の負担が軽減することが期待される。
2014年のプロジェクト開始から10年、世界で初めて実用化され、厚生労働省の認可も得て2024年6月から販売されている。衣料から医療へ「これまで培ってきたニットの技術で子どもの命を救いたい」という福井経編の想いが結実したプロジェクトである。

身体の成長に合わせて伸張する心・血管修復パッチ「シンフォリウム」/写真提供:帝人株式会社

 

  • mixiチェック
↑