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生活文化創造都市推進事業
生活文化創造都市ジャーナル_vol.20 「本のまち八戸」によるまちづくり
八戸ブックセンター 所長 音喜多信嗣氏
1.八戸市の文化によるまちづくり
青森県八戸市では、「はちのへ文化のまちづくりプラン~八戸市文化芸術推進基本計画~」を定め、地域特性や地域資源を活かし、文化芸術の振興のみならず他分野との連携によるまちづくりや、こどもたちや障がいのある方などに対して、誰もが文化芸術の恩恵を享受できる環境づくりを進めている。
この中に搭載している「本にふれる施設」として運営をしている公共施設「八戸ブックセンター」を拠点とした「本のまち八戸」の取り組みについて紹介する。
2.「本のまち八戸」のはじまり
本に関する公共施設といって一般的なものは図書館だと思われるが、図書や郷土資料などを収集、整理、保存し、それを誰もが借りて読むことが出来るという図書館の役割は、地域の教育や文化の発展にとって重要な行政サービスである。
近年の全国的な傾向として、きめ細やかな図書館サービスの提供、図書館を核とした複合施設の整備などを背景に、図書館の数は増加傾向にある。
八戸市にある図書館(本館)は、1874年に設立した八戸書籍縦覧所を前身とした、現存する日本最古の公共図書館で、2024年に150周年を迎えている。
このような中、八戸市では、こどもから大人まで市民が様々な本に親しんでいただき、本のある暮らしが当たり前となる、文化の薫り高いまちを目指す「本のまち八戸」を2014年に掲げ、以降、図書館や民間書店、教育機関などと連携を図りながら各種事業を展開してきている。
3.「本のまち八戸」関連事業について
これまでの図書館や各学校での読書推進の取り組みに加え、2014年度から様々なかたちで本に触れるきっかけとなるよう、こども向けの三つの事業を開始した。
一つ目は、赤ちゃんとその保護者を対象とした「ブックスタート事業」で、生後90日頃の検診時に、市内の読み聞かせボランティアの方々に協力いただきながら絵本の読み聞かせを行い、図書館の利用案内とともに、専用バックに入れてプレゼントしている。まだ1歳にも満たない赤ちゃんではあるものの、読み聞かせをすることにより、にこやかな表情になるなど、興味を示してくれる赤ちゃんが多く、保護者の方々へ「読み聞かせ」というものを知ってもらえるとともに、絵本を通じて、ゆっくりと心触れ合うひとときを持つきっかけになると好評を得ている。
二つ目は、市内の小学生を対象に市内書店で使用できる2,000円分のクーポンを配付する「マイブック推進事業」で、児童が書店へ出かけ、絵本や小説、物語といった読書活動に適した本を自ら選び購入する体験を通して、読書に親しむ環境をつくることを目的に実施している。事業開始から10年が経過しているが、利用率は90%を超えており、保護者や児童からは、「本に触れるきっかけが増えた」、「親子のコミュニケーションが広がった」といった好意見をいただいている。
三つ目は、市内小中学校への学校司書派遣事業で、長年、青森県内では小中学校の学校司書がゼロという状態が続いていたが、市内小中学校への派遣を開始し、現在では学校ボランティアの方々と一緒に全校をカバーすることが出来ており、学校図書館の充実に努めている。
4.八戸ブックセンターの開設
2014年からこどもを対象とした事業を中心に実施してきたが、「本のまち八戸」の拠点施設として位置づけた八戸ブックセンターを2016年に開設した。
図書館で本を借りて読むという体験と、書店で本を買って読むという体験は別のものであり、本を私有するという体験が重要であるという考えのもと、当センターで取り扱う本、約10,000冊は、展示用の本を除き全て販売している。
事業開始時においても課題となっていた「書店の減少」について、昨今の地方都市においては顕著で、地方の書店の多くでは、品揃えが経営面などから売れ筋となる本を中心に取り扱わざるを得ない状況となっており、結果、海外文学や人文・社会科学、自然科学、芸術などの分野の本の陳列が相対的に少なくなっている。
これらの本は、知的好奇心を刺激し、読書の幅を広げるきっかけとなるなど、市民の文化力向上にも寄与するものであるが、民間書店では扱いにくいため、当センターではこれらの本のほか、利用者の幅を狭めないよう、こどもや親子連れ向けに、絵本や暮らしに関する本などを中心に扱っている。また、図書館のような、目的の本が探しやすい並べ方をするのではなく、本との偶然の出会いを誘発する提案・編集型の陳列を行っている。
また、当センターは八戸市の直営施設であり、施設の維持管理のほか、本の選書や陳列、企画事業の実施については、民間書店で選書等の経験のあるスタッフも市職員として新たに雇用して行っている。
なお、仕入れた本が届いてからの業務である検品やカバー掛けのほか、在庫管理、レジ業務などについては、市内の書店で組織している組合に委託しており、民間書店とも連携した運営体制としている。

5.八戸ブックセンターの取組
当センターは、単に本を販売するだけではなく、八戸に「本好き」を増やし、八戸を「本のまち」にするため、「本を読む人を増やす」「本を書く人を増やす」「本でまちを盛り上げる」という3つの基本方針を定め、これらに則った施策を実行していくこととしている。
「本を読む人を増やす」ことに関しては、作家やデザイナー、編集者など、本の出版に携わる方々のほか、教育機関や文化施設などからもゲストを招いて、本を軸としたトークイベントなどを実施している。これらの企画により、あらゆる本への理解だけではなく、参加者間の本を通した交流も深め、読んでいない本やジャンルへの興味を喚起する機会になっている。
「本を書く人を増やす」ことに関しては、小説の書き方、本の作り方、電子出版の仕方など、執筆や出版に関するワークショップを開催しており、知識を深めるとともに、「書く」「つくる」という同じ志を持つ方々がワークショップを機会に集うことが刺激となり、本を書く・つくるきっかけづくりになっている。
また、「書く人」のために、執筆専用の部屋「カンヅメブース」を貸し出している。利用希望の方には「市民作家登録」をしてもらっているが、300名を超える方が登録しており、利用した方の本が出版されたケースも出ている。この先、「本のまち八戸」として、八戸の人が本を書き、その本を八戸の人が読むという流れが出来ることを願っている。
「本でまちを盛り上げる」ことに関しては、「本のまち八戸」の拠点施設である当センターが中心となり、民間、公共を問わず様々な関係者と連携し、「本」を切り口とした企画事業を実施している。
なかでも、2024年で6回目の開催となった「本のまち八戸ブックフェス」について、市民参加型の一箱古本市をメインとし、市内の書店や古書店、飲食店、全国から応募いただく出版社などのブース出店のほか、トークイベントやおはなし会、ブックリサイクルフェア、こども向けのさがしっこイベント等、本に関するイベント満載で開催しているが、年々出店希望者が増え、来場者からの希望もあり、開催期間を1日延長するまでになっている。
そのほかにも、市内のカフェや公共施設などに呼びかけ、当センターがその施設に合った本を選書し、小さな本箱とともに設置してもらうことにより、様々な本棚スポットをめぐる楽しさを創出する「ブックサテライト増殖プロジェクト」も実施している。


6.八戸ブックセンター開設による効果・まとめ
当センターが開館して2024年で8年が経過している。この間、独立系書店と呼ばれる特徴的な書店は何件か新たにオープンしているが、いわゆる書店は、10年前と比較すると18店から10店まで減少している。
書店文化を守ることもブックセンターの役割と考え、民間書店との棲み分けを図りながら、「今読んでほしい本」の提案をし、合わせて、公共施設という強みを活用し、民間書店連携のハブとしての役割を担いながら、民間書店とも一緒になって、本に触れるきっかけとなるようなイベントを実施している。このことにより、本を「読む」「書く」ことへの興味喚起に繋げ、少しずつではあるが、「読む人」「書く人」の底上げとなり、書店文化を守ることに貢献していると認識している。
これらの効果として、館内の読書会ルームを定期的に利用する団体が増えてきており、また、当センターのイベントをきっかけに、ZINEをつくっている方々が「HACHINOHE ZINE CLUB」という新たなコミュニティを立ち上げて活動を続けている。更には、カンヅメブースを利用している方が、2025年元日に発表された、地元新聞社主催の文学賞で大賞を受賞するという嬉しい事例も出ている。
また、ブックセンターが書店機能を持ち合わせた公共施設という特異性もあり、2016年の開館以降2024年までの8年間で550件、4000人を超える自治体や議会による視察、教育機関の研究などで全国から多くの方に来館いただいており、地域内の観光需要にも繋がっていると考えている。
このように、当センターは単なる書店ではなく、「まちづくり」を起点にした、観光コンテンツとしても期待できる、「本好き」を増やす取り組みを行っている施設となっている。
図書館は「まち」に必要な施設であるが、図書館に留まらない、本に触れるきっかけをつくる場の選択肢を増やすことは、特に地方都市においては、公共サービスとして必要な事業であると考えている。
2022年9月には、八戸ブックセンターを参考にした、図書館や書店のある自治体では2例目となる公設書店が福井県敦賀市にオープンしている。このように、公設の書店という考え方、必要性が浸透していくことにも期待しつつ、今後も、図書館や民間書店を始め、様々な「施設」「ひと」と連携を図りながらの運営を続けていきたいと考えている。

写真提供:八戸ブックセンター