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世界中の創造都市に学び、これからの臼杵を展望する
生活文化創造都市推進事業
生活文化創造都市ジャーナル_vol.19
世界中の創造都市に学び、これからの臼杵を展望する
臼杵市 政策監
佐藤 一彦氏
1.臼杵市の食文化
臼杵市は、大分県の東南部に位置し、東は豊後水道を臨み南西部は比較的険しい山稜となっており、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた人口3万6千人ばかりの小都市である。その恵まれた地形と地質により、名水にまつわる話も多く、水量も豊富で、キメ細やかでまろやかな柔らかい水を有する。この水が重要となる醸造業が1600年頃に始まり、味噌・醤油・酒造りが盛んに行われ、「醸造のまちうすき」として発達してきており、老舗が軒並みに揃う臼杵の町の中でも「フジジン醤油」や「フンドーキン醬油」といった全国銘柄の歴史も150年と古いのだが、創業が420年以上も前に遡る「可児醤油」の創業者は、味噌醤油商としては大分県最古であると言われている。
入江や島のある臼杵では漁場が多く、豊後水道の早い潮流に揉まれて身が締まった活きのいい魚が揚がる。かつては、町に「魚ん店(うおんたな)」と呼ばれる小さな魚屋が十軒ほど並んだ地区があり、また、魚を素材とする料理店も多く、互いに競い合って魚料理の腕を磨き、ともに発展してきた。
一方、大分の食糧庫と呼ばれ農業が盛んな野津地域には、灌漑施設を擁した広大な畑地があり、主として慣行農業が営まれてきたが、市町合併を契機に、環境保全に即した農業推進と「食」による健康増進のため、有機農業の振興を市が率先して行っている。
中心市街地やその周辺には、これら臼杵の食材を使った料理を食することのできる和食店が立ち並び、南蛮文化や質素倹約を旨とする文化のなごりがある郷土料理や名物のふぐ料理の他、九州で唯一現存する本膳料理、精進料理等を食すことができる。また、最近では移住者が経営する有機野菜を活かしたフレンチなどの洋食店も開かれている。
2.食文化創造都市臼杵
臼杵市はこうした地元の食にまつわる歴史・資源の存在を踏まえて、食文化を軸とした「創造都市」としての発展を目指しており、2021年2月に「臼杵食文化創造都市推進協議会」を設置し、市を挙げて取り組むこととした。同年6月に、ユネスコ創造都市ネットワークに、7分野あるうちのひとつである「食文化」分野で申請を行い、11月には加盟が認められ、国連がかかげるSDGsの実現にも食文化を通じて向かおうとしている。創造都市ネットワーク加盟後、食文化創造都市として今後いかに臼杵の食文化を継承し、また、発展しようとしているのかについて、特に強化してきた有機農業の振興策や食文化創造都市推進プロジェクトの活動内容を以下で紹介したい。
3.地産地消型の有機農業
2005年に現在の臼杵市となり、農林水産業のあるべき本来の姿や水源を守り育てる森づくり等持続可能な施策の必要性を再認識するとともに、食が市民の命に直結していることなどを重要視し、有機農業の振興を新たな軸とする方針を打ち出した。“本来の農業の姿”、“本来の味がする農産物生産”という意味を「ほんまもん」という言葉に込め、推進母体「ほんまもんの里・うすき」農業推進協議会を設立し、2010年には「有機農業推進室」を設置するなど振興体制を整えた。同年、自然環境との調和や地産地消の更なる促進、また“食と農”の強い信頼関係に重点をおいた臼杵市農業のあるべき姿(ほんまもんの里)を念頭に、「ほんまもんの里みんなでつくる食と農業基本条例」を制定するとともに、「ほんまもんの里みんなでつくる臼杵市食と農業基本計画」を策定し有機農業の振興施策を強化してきた。
(1)給食畑の野菜
「児童・生徒の健やかな成長のため、学校給食を地元の野菜で賄いたい」という思いで、2000年、地元農産物を食材として使用していく取り組みを始め、「給食畑の野菜」と名付けた。JAや生産者、行政が連携して推進し、給食畑での農業体験や出前授業等の食育活動も積極的に行い、市町合併後も継続して行っている。この取り組みが、地産地消型の有機農業を振興していく上で礎となっている。
(2)うすき夢堆肥
有機農業を振興していくためには、完熟堆肥による土づくりに対する理解と供給体制の整備が必要だと考え、国と県から支援を受け、地域資源を活用した土壌改良に適した完熟堆肥の製造・供給を行う、「臼杵市土づくりセンター」を2010年に開設した。
臼杵市土づくりセンターでは、主原料となる地域の草木(8割)を、大規模な機械の力で細かく粉砕し、発酵に必要な量の豚糞(2割)と混ぜ、日々撹拌した後定期的に切り返しを行っていくことで発酵を促し、6か月かけて完熟堆肥を製造している。この堆肥を「うすき夢堆肥」と名付け、バラ積販売や小売り店での袋販売の他、臼杵市環境保全型農林振興公社が、運搬と散布作業の受託を行う等、完熟堆肥を安定的に供給できる体制を整えている。結果的に有機栽培面積が80ha(耕地面積の約6%)にまで拡がり、新規就農者や農業生産法人の参入も増加していった。
(3)ほんまもん農産物
有機農産物の消費拡大のため、2011年、「うすき夢堆肥」等完熟堆肥で土づくりを行い化学肥料や化学合成農薬を使わずに生産された農産物を臼杵市長が認証する「ほんまもん農産物認証制度」を制定した。「ほんまもん農産物」生産者は50戸程おり、市内外の直販所で販売する他、飲食店や個人に向けての宅配等も行っている。
2015年からは、有機農業での就農を目指す「地域おこし協力隊」の採用を始め、協力隊は3年間、有機農業の技術を学びながらほんまもん農産物のPR活動も行っている。また、ほんまもん農産物生産者等と共に、オーガニック朝市「ひゃくスタ(百姓スタンダード)」を月初めの日曜日に開催しており、市内外からのお客さんで賑わいをみせ来場者との交流の場にもなっている。
(4)映画
臼杵市が制作をしたドキュメンタリー映画「100年ごはん」は、本市の水源涵養の森づくりの取り組みや有機農業の取り組み等の日常が描かれており、将来のあるべき姿を臼杵ブランドとして表現している。映画館での上映という形では無く、監督のトークや食がセットの自主上映会という形により国内外260か所以上で上映されている。
また、第一次産業を主題とした映画「種まく旅人」シリーズの第一作「種まく旅人~みのりの茶」は、大分県内で有機JAS認定第1号である高橋製茶を主な舞台として撮影された。
大分県の特産である香酸柑橘“かぼす”は、本市に元祖木(3代目)があり、臼杵市が生産量、販売額ともに県下で最も多く、有機栽培の園地も増えている。また完熟したかぼすを「黄かぼす」として売りだしカボス加工商品も多く開発・製造されるなど、食文化として根付いている。また、在来作物である「宗麟かぼちゃ」継承のため、毎年、種の採取を行い、料理レシピ本の作成や飲食店への利用啓発を継続して行っている。
2015年からは、「ほんまもん農産物」等の地元農林水産物を活用し、添加物を極力使わず丁寧に作られた加工品を「うすきの地もの」として市が認証し、ブランド化を図っている。
このように農林水産業の本来あるべき姿を目指し、継続してきた取り組みを、食文化創造都市として継承し、創造性を活かして発展させていくためには、市民全体で農林水産業や「食」を取り巻く環境、田畑の環境・生物多様性のことなどを、この先100年単位で見据え考え、「食文化」に関わっていくことが重要だと考える。
4.食文化創造都市推進事業
ユネスコ創造都市ネットワークに食文化分野で加盟できたことにより、先人たちが長きにわたり育んできた「食文化」を背景に、今後、創造都市として食文化の継承と創造性を活かした産業振興を世界中の創造都市との連携・協力のもと行うとともに、持続可能な都市づくりとそのための課題解決等、様々な活動を強化していかなければならない。
臼杵食文化創造都市推進協議会では、“人も環境も健康のもとで、食を楽しみ、次世代につなぐまち”を基本構想とした「臼杵食文化創造都市推進プラン」を策定し、その中で、市民意識の醸成のための「食文化の掘り起こし」、市民全体の「繋がり」をテーマに「多様な文化人材との連携」、創造的な食産業育成のための「食文化による産業の振興・創出」、地域社会の課題に対応していくための「国内外の都市との連携・貢献」の4つの方針を定め、令和3年度から4年度にかけて、「臼杵食文化シビックプライド醸成」、「臼杵食材等利用促進」、「臼杵食文化情報発信」の3つのプロジェクトを柱に様々な事業を展開している。
(1)臼杵食文化シビックプライド醸成
「アーカイブ作成事業」では、冊子『食文化創造都市臼杵』ストーリーBOOK~掬ぶ~(総集編/地酒編/器編)を制作し市内全世帯に配布した。また、醸造業等の食文化や郷土料理等を調査しアーカイブ化するとともに「臼杵食文化大型絵図」を作成し展示をしている。
「郷土料理教室事業」では、郷土料理の伝承と日常化のため市民を対象として料理教室や講座を行うとともに、料飲店組合や食生活改善推進協議会が講師となり、市内各小学校で「郷土料理教室」を開催している。令和4年度は9校から希望があり、料理教室の中で食文化創造都市のについての周知も行っている。
市民を対象とした「臼杵食楽アンバサダー養成講座事業」では、臼杵の食文化を伝える人材を養成するための講座(全10回)を開催し、受講終了者は今後、“臼杵・食のガイド”として、教育旅行や観光客に対して「食」の魅力を発信していく予定である。
「スローフードアカデミー事業」では、こども園の保育士や栄養士等子育てに携わる方々を対象として、食料システムとそれに付随する様々な社会課題に対する理解を深め行動を促す講座(全6回)を開催している。
「臼杵食文化映画祭事業」は、「食べる」という行為の振り返りと「食」への関心を高めることを主眼に、食文化創造都市として進むべき道標となる映画上映会を開催。同時に食に纏わるイベント等を開催するなどしてより多くの市民に対して「食」の重要性や理解促進を図っている。
「臼杵食文化シンポジウム事業」では、より多くの市民に対してシビックプライドの醸成と今後の臼杵を多くの市民で展望していくに相応しい講演やトークセッションを行い、多くの市民の参加を得ている。
(2)臼杵食材等利用促進
学校給食における「『ほんまもん農産物』利用拡大対策」事業として、給食で使用する三大品目(玉ねぎ、にんじん、じゃが芋)の貯蔵試験を行い、出荷期間を拡げることで供給率を高めている。また、市内農林水産物の飲食店での利用拡大のため、うすき食フェス「発酵うすきめし」や「臼杵ん地魚フェア」を開催することで、更なる地産地消の拡大を図っている。
(3)臼杵食文化情報発信
「臼杵食文化体験プログラム」事業では、発酵文化やSDGs、有機農業を盛り込んだ体験プログラムを商品化するためのモニターツアー「ほんまもん体験ツアー」や「臼杵SDGs体験ツアー」を実施。他にも、プロモーションとして大分県アンテナショップ「坐来大分」での「臼杵フェア」の開催や、スローフード協会との連携による、世界的な食の祭典「テッラマードレサローネデルグスト」へ参加するなど様々な方面から国内外に向け情報発信を行う。
ユネスコ創造都市ネットワーク加盟都市(食文化)である山形県鶴岡市やマレーシアのクチン市との交流・連携を進めている。特に鶴岡市からは、創造都市ネットワーク申請前から多くを学び、加盟後も様々な交流・連携事業を通じて人材育成と事業効果向上を図っている。
以上のプロジェクトは、ユネスコ創造都市ネットワーク加盟都市として組み立てたものだが、今後は更に創造都市というレベルで統合的に推進・改善し更に強化を図っていく必要がある。また、本市は食文化創造都市として、循環型社会の実現に向けて国内においても先導的なモデル都市となっていく必要があり、国内・国外の情報を積極的に取り入れるとともに、大分県や県内各市町村との連携により地域統括的な食文化の創造推進を強化していかなければならないと考えている。
今後、発酵食文化の根付く各創造都市と、発酵食を通じた積極的な交流を行っていき、令和4年度に大分県が開催都市となった「東アジア文化都市2022」において関わった他の開催都市とも継続的に交流を深めていきたい。
また、食文化を、他の文化分野である映画や工芸、音楽等と融合させることで創造都市を多面的に展開し、臼杵市の食文化を活用した国際協力イニシアチブを実施し相乗効果を発揮していく必要もあり、大分県の文化施設や県内大学等との連携も重要となる。
市民のひとり一人が、「臼杵の食」について、理解を更に深め、地元の風土や食文化、醸造業、農林水産業に誇りを持ち、主体的に活動・活躍し、食関連産業の継承と創造性を持った新たな産業を創出し得るまちを創り出す。そしてそれを交流人口の増加や移住人口の増加、強いては産業の活性化と持続可能な循環型社会の構築に繋げていきたい。
写真提供:佐藤一彦氏