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生活文化創造都市推進事業
生活文化創造都市ジャーナル_vol.10 創造都市施策とアーツコミッション・ヨコハマ
横浜市文化観光局創造都市推進課長
小泉宏氏
1 横浜市と創造都市施策
佐々木雅幸氏が「生活文化創造都市ジャーナルvol1」で述べている通り、横浜市は他都市に先駆けて2004年から創造都市施策の展開を始めた。背景には、横浜の都心部であり開港以来の歴史を有する関内地区において、歴史的建築物の減少やオフィスの空室率の上昇等があり、活力が失われつつあるという課題があった。
そこで、横浜市は、2003年に文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会を設置し、2004年1月に委員会が「文化芸術創造都市-クリエイティブシティ・ヨコハマの形成に向けた提言」をとりまとめた。提言では、文化芸術の創造性をまちづくりに活かすことで、横浜の都心部を活性化することが提案された。
当該提言における政策の大きな柱の一つであり、2004年から現在に至るまで推進しているプロジェクトとして、「創造界隈の形成」がある。「創造界隈の形成」とは、関内地区の歴史的建築物等を創造界隈拠点に位置づけ、この拠点を中心にアーティスト・クリエイターを集めることで、創造界隈を形成するというものである。
そして、アーティスト・クリエイター、学校、企業、市民などが活動しやすい環境づくりを行うため、2007年に財団法人横浜市芸術文化振興財団において中間支援型事業の「アーツコミッション・ヨコハマ」が立ち上げられ、横浜市は当事業を補助することで、現在に至るまでアーティスト・クリエイター等への支援を行っている。
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2 アーツコミッション・ヨコハマ
アーツコミッション・ヨコハマは、当初、横浜で創造的な活動を行う方の相談に応える「相談窓口・コーディネート」が主な業務だった。その後、窓口を通じて得られたアーティストやクリエイターのニーズを取り入れながら助成金事業を開始し、また、空きオフィス・店舗・倉庫を活動スペースに活用していく芸術不動産事業や、クリエイターのプロモーションを行うWEBサイト「横浜市クリエイターデータベース」を立ち上げる等、充実を図っている。本稿では、主な事業について紹介する。
(1) 相談・コーディネート窓口
「横浜にアトリエや事務所を設けたい」「滞在制作したい」「展覧会や公演の会場を探している」「自社で起用するデザイナーを探している」など、横浜で活動するにあたっての質問や相談を受け、コーディネート等を行っている。
<過去5年間の相談件数>
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2012年度 |
2013年度 |
2014年度 |
2015年度 |
2016年度 |
相談件数 |
99件 |
138件 |
150件 |
160件 |
191件 |
(2) 助成金事業
横浜市は、アーティスト・クリエイターの市内での活動を支援するため、次の助成金事業を行っている。
〇創造都市横浜における若手芸術家育成助成
(クリエイティブ・チルドレン・フェローシップ)
横浜から世界に芸術文化を発信する次世代のアーティストを育成し、そのキャリアアップを支援することを目的とした助成を行っている。
<助成制度の概要>
対象 |
以下の条件をすべて満たすアーティスト個人 ① 美術、舞台芸術の分野で活動する美術家、劇作家、演出家、振付家、ダンサー ② 39歳以下 ③ 横浜に在住・在学、又は横浜を活動拠点とする人 |
交付額 |
100万円以内/年 |
2017年度実績 |
7件 |
〇クリエイティブ・インクルージョン活動助成
アーティスト・クリエイターの創造性により、年齢や性別、障害の有無や国籍等にとらわれることのない社会を発信していく活動を支援することを目的とした助成を行っている。
<助成制度の概要>
対象 |
① テーマ応募 2017年度は「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」をテーマとした活動 ② 自由応募(テーマなし) |
交付額 |
200万円以内/年 |
2017年度実績 |
7件 |
〇アーティスト・クリエイターのための事務所等開設支援助成
アーティスト・クリエイターの誘致を目的として、アーティスト・クリエイターが関内・関外地区に賃貸借して、スタジオやアトリエ、事務所等を開設するための助成を行っている。
<助成制度の概要>
対象 |
① 新進アーティスト、クリエイター、ディレクター等 ② 45歳以下 ③ 対象区域内において事務所等を設置すること |
交付額 |
・横浜市外からの移転の場合、最大200万円 ・横浜市内からの移転の場合、最大50万円 |
2016年度実績 |
11件 |
3 アーツコミッション・ヨコハマの今後の展望
(1)アーツコミッション・ヨコハマの新たな展開
横浜市は、2004年から創造都市施策の展開を始め、創造界隈拠点を整備するとともに、アーツコミッション・ヨコハマを通して横浜の都心部にアーティスト・クリエイターの集積を進めてきた。
そして、従来のアーティスト・クリエイター等の集積の次の段階の取組として、2016年度から、文化庁補助事業「文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業(地域における文化施策推進体制の構築促進事業)」を活用し、アーティスト・クリエイターをはじめ、文化芸術施設や創造界隈拠点、企業、NPO、大学等の様々な関係者が参加するプラットフォームの構築の取組を始めた。これは、様々な関係者が出会い、ネットワークを構築することで、新たな事業やビジネスチャンスの創出、文化芸術の創造性を生かした魅力あるまちづくりの展開などの相乗効果(シナジー)が生み出されることを目的としている。
2016年度には、プラットフォームのコアとなるメンバーによる企画会議や、実際に様々な関係者が出会い、交流し、相乗効果を生み出す場となる「プラットフォーム・ミーティング」を開催した。さらに今年度は、クリエイター等による実験的なプロジェクトを進めている。
(2)東京2020オリンピック・パラリンピック等に向けて
今後、横浜では、2019年にラグビーワールドカップ2019、2020年には東京2020オリンピック・パラリンピックが開催される。2つの世界的なスポーツイベントが2年連続で開催される大きなチャンスを生かし、横浜の魅力・活力を世界に発信していくため、両大会に向けた「基本姿勢」や「取組の柱」、「取組から生まれるレガシー」等を取りまとめた「ラグビーワールドカップ2019 東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた横浜ビジョン」(以下、「横浜ビジョン」)を2016年11月に策定した。
※ラグビーワールドカップでは決勝・準決勝戦、東京2020オリンピック・パラリンピックではサッカー競技及び野球・ソフトボール競技が横浜市内で開催予定
「横浜ビジョン」 〇基本姿勢
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「横浜ビジョン」の基本姿勢に記載されている通り、横浜市は、ラグビーワールドカップ2019、東京2020オリンピック・パラリンピックの市内開催について、スポーツのみならず、文化芸術による賑わいと活力の創出の機会と捉えている。
前述したアーツコミッション・ヨコハマの各種事業やプラットフォームは、「横浜ビジョン」の基本姿勢を実現するための施策となる。とりわけプラットフォームについては、東京2020オリンピック・パラリンピック終了後も、文化芸術創造都市・横浜の持続的な発展を支えていくソフトインフラにおける基盤となり、この基盤を通し、様々な主体が関わる文化芸術創造都市の取組が実現されることを目指している。