授賞案件
日本クリエイション大賞2018 授賞案件
今年度選考について
“平成最後”という表現が多く聞かれるようになった2018年は、ここ数年で顕在化したさまざまな社会的課題の解決に向けた挑戦が、成果を見せ始めた年でもありました。
プラスチックゴミに代表される環境問題、深刻さを増すサイバー攻撃、働き方改革、農業改革、人口減少による地方の衰退などの課題の解決に向けて、個人、ベンチャー、団体、企業などが取り組んでいる姿が多様な形で示されました。本賞の選考にあたっても、今年度、事務局推薦も含めた133件の候補案件の多くが社会的課題の解決策となるものでした。
それら133件の候補案件の中から、運営委員によって絞り込まれた40案件を選考委員会に提案し、2019年1月の第3回選考委員会で大激論の末、四度の投票を経て、大賞および<仕事改革開発賞><農業活性化賞><教育文化貢献賞>が決定しました。
<大賞>は、まさしく現代社会が抱えるグローバルな課題であるサイバーセキュリティ分野で、国内市場を牽引しているセキュリティサービス「攻撃遮断くん」を開発した、その名も株式会社サイバーセキュリティクラウドが受賞しました。同社は、28歳という若きリーダー、代表取締役の大野暉氏に率いられ、国内での実績に基づき、サイバーセキュリティ市場で、全世界の半分以上の規模を持つ北米市場に進出。世界に挑戦するその意気込みと今後の活躍を期待しての受賞となりました。
<仕事改革開発賞>の株式会社シナモンは、代表取締役CEOの平野未来氏が、ホワイトカラーの業務効率を改善し、AIが事務作業を代替する世界づくりを目指して2016年に起業したベンチャー企業です。0歳と1歳の二児の母でもある平野氏にとって、単純作業に費やす時間をAIが代
替する社会は、今、すぐにでも実現したい課題です。そのためのシステムやプロダクトを開発し、同社も昨年12月アメリカに現地法人を設け、世界一のAI企業の実現に挑戦しています。
現代日本の大きな課題の一つが、高齢化の進展に伴い担い手が減少している農業です。AIやIoT、ドローン、ロボットの活用、自動運転農機などさまざまな取り組みが試行されています。その中で農業に従事したいという若者の意欲を引き出したのが、イオングループの就業規則をベースに農業の実態に合わせた働き方を示したイオンアグリ創造株式会社です。平均年齢29歳という若者たちが担う農業法人に<農業活性化賞>が贈られました。
少子化、高齢化などで、衰退が著しい地域社会の再生も大きな課題です。島根県隠岐諸島の一つ・中ノ島に、島外や海外からの留学生が、全校生徒の約半数を占める高校があります。それを実現したのが、<教育文化貢献賞>を受賞した岩本悠氏です。岩本氏は、島根県教育魅力化特命官として、島だけでなく、島根県の高校に全国から生徒を集める「しまね留学」でも実績を残しました。都会から地方の高校にあえて国内留学する「地域みらい留学」は、高校選びの新たな選択肢として全国的な規模で展開され始めています。
大 賞
サイバーセキュリティサービスで国内を牽引する“攻撃遮断くん”
株式会社サイバーセキュリティクラウド(東京都)
インターネットを通じてあらゆるものが世界と繋がった現在、IT分野でさまざまな技術革新が起こり、私たちの生活は便利で快適なものになった。一方、不正アクセスなどのサイバー攻撃が激化し、それを防ぐ国内のサイバーセキュリティ市場は、2019年には1兆円を超えるとも言われている。
欧米に押されがちなこの市場で、「世界中の人々が安心安全に使えるサイバー空間を創造する」を企業理念に掲げ、全世界の企業をターゲットに、自社で一貫してWebセキュリティサービスの開発・運用・保守・販売を行っているのが、2010年創業の株式会社サイバーセキュリティクラウドである。
同社のクラウド型WAF(Web Application Firewall)「攻撃遮断くん」は、Webサイトへのサイバー攻撃を可視化し、遮断するサービス。2013年12月のサービス開始から約3年半で、外資系の競合を相手に、この分野の国内累計導入サイト数・累計導入社数ともにNo.1※を獲得。官公庁や金融機関をはじめとする大企業からベンチャーまで、さまざまな企業に利用され、2018年5月時点の累計導入実績は5000サイトを超えている。
クラウド型であることから、ユーザーはハードウェアやソフトウェアを調達する必要がない。運用や保守も同社がクラウド環境で行うため、ユーザー側に専任の技術担当者を置く必要もなく、迅速に最新の脅威に備えることができる。
「早く、簡単に、より安全」なwebセキュリティ対策を実現し、運用負荷の劇的な改善を可能にしたこと、webサイト数やトラフィック量の増加に関わらず一定額で利用できることなどが高く評価され、国内市場を牽引し続けている。自社開発だからこそできる万全のサポート体制や、業界初となる、最大1000万円を補償するサイバー保険も魅力となっている。
「攻撃遮断くん」の運用で蓄積された数千億件のビッグデータをもとに、同社は企業理念を実現する国際的なリーディングカンパニーとなるべく、2018年10月、米国に現地法人を設立、海外展開に向けた一歩を踏み出した。全世界の半分以上の市場規模を持つ北米市場で成功をおさめ、2023年までに海外売上比率5割を目指している。
同社を率いる代表取締役の大野暉氏は、1990年生まれの28歳。高校の学費を稼ぐため、16歳で起業した経験を持つ。欧米に後れを取っているといわれるこの市場で、若きリーダーのもと、圧倒的なスピード感と連続的な技術革新をもって、世界に挑戦する同社の今後の活躍に期待が高まっている。
※ESP総研調べ「クラウド型WAFサービス」に関する市場調査(2017年8月調査)より
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仕事改革開発賞
手書き文字を読み取るAIエンジン『Flax Scanner 』を開発
株式会社シナモン(東京都)
働き方改革が叫ばれる中、日本のホワイトカラーの業務効率を、抜本的に改善するのではと期待されているのが、株式会社シナモンが開発した文書読み取りAIエンジン『Flax Scanner』である。
『Flax Scanner 』は、取引先ごとにレイアウトが異なる請求書、見積書、発注書、納品書、申込書、技術文書などの非定型帳票を自動で読み取り、ドキュメントから文字情報を正確に抜き出し整理するAI-OCR(人工知能を活用した光学文字認識)製品。
漢字、平仮名、カタカナ、アルファベット、数字などの手書き文字さえ85~100%という高い精度で読み取ることができ、アンケート用紙など統一されていないフォーマットに、手書きで書かれた文書でも高い精度で読み取りが可能。
AIがディープラーニングを利用して文書を読み取り、テキスト情報がどの情報に属したものなのかを分類し、整理した上でシステムに自動で入力する。既に大手銀行や保険会社などで利用され、データ入力業務におけるニーズが高いという。
シナモンは、2016年10月「日常的に発生する無駄な業務をなくし、人が創造性溢れる仕事に集中できる世界を目指す」というミッションの下、設立された。代表取締役CEOの平野未来氏は、コンピュータサイエンスを専門とするエンジニアで、東京大学大学院在学中につくった会社を売却後、シナモンを創業したシリアルアントレプレナー※。
同社は、国内だけでなく、ベトナムのハノイとホーチミン、さらには台湾に人工知能ラボを構え、優秀なAIエンジニアを多数採用。高度な技術を扱いつつ、スピーディーな開発を提供する体制を整え、2022年までに「AIエンジニア500人構想」を掲げる。
2018年12月にはアメリカ法人を設立。これを足掛かりに海外進出を本格化するシナモンが描く未来は、AIを用いたシステムやプロダクトの提供で、世界No.1のAI企業となることだ。
※起業家であるアントレプレナーの中でも、特に連続して何度も新しい事業を立ち上げる 起業家を指す言葉
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農業活性化賞
新時代の農業の先駆けとなる農業法人
イオンアグリ創造株式会社(千葉県)
我が国最大手の小売りチェーンであるイオングループの農業法人として設立したイオンアグリ創造株式会社は、2009年、茨城県牛久市の特定法人貸付事業として第1号農場を開場した。10年目を迎えた現在、全国20カ所の直営農場を構え、計350haを営農し、約70カ所のパートナー農場と併せて、年間100品目あまりの農産物を生産し、グループ各店舗に供給・販売している。
同社が新卒採用を本格的に開始した2014年、採用枠40人に対し4000人が応募し、同グループの中でも最高の約100倍を記録した。以降も1500人規模の応募が続き、2018年には一桁台の採用枠に500人の応募があった。
同社が、若者たちからこれだけの支持を集めているのは、グループの就業規則を基本に、農業の実態に合う働き方を追求するとともに、農業に従事したいという若者の意欲を引き出しているからだ。
天候に仕事が左右される農漁業者には、労働時間、休憩、休日に関する規定が労働基準法で除外されているが、同社では時間外給与の支給、出産・育児休暇はもちろん、雨続きで農作業ができない日が続く週は休日を多くし、年2回10日以上の連続休暇の取得を呼びかけるなど働く環境を整えた。
「イオン」の名前を掲げて農業を行うだけに、殊に品質管理に関しては、世界標準の農業生産工程管理である「GLOBALG.A.P.」を取得するなど、食の安全・安心にもこだわっている。同社は組織、制度、教育研修、マネジメントシステム、物流、ITなどによって、さまざまな課題を抱えている日本の農業を近代産業に変えようとしているのだ。
同社社員の平均年齢は29歳。2018年の国内農業就業者の平均年齢66.8歳※の半分以下の若さだ。大学院で修士号を取得した学生なども入社している。社員全体の40%を女性が占め、女性の農場長も多い。退職者は少ないという。
働く環境が整い、安全で付加価値の高い農産物を安定して提供でき、ビジネスとしても魅力ある仕事だからこそ、本気で農業を志す人々を惹きつけているのだ。
※農林水産省統計部「農林業センサス」「農業構造動態調査」より
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教育文化貢献賞
高校選びの新たな仕組みを推進
岩本 悠氏(島根県)
島根県教育魅力化特命官/一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表
岩本悠氏が初めて島根県の隠岐諸島の一つ、中ノ島の海士町を訪れたのは、2006年5月のことだった。2003年『合併しない宣言』を行った海士町では、「自分たちの島は自分たちで守り、島の未来は自ら築く」という想いから、地域の未来を担う子どもたちを育てる教育改革に取り組んでいた。その一環である「人間力推進プロジェクト」の出前授業に、学生時代にアジア・アフリカ20ヵ国の地域開発の現場を巡り、当時ソニーで人材育成や社会貢献事業に携わっていた岩本氏が講師として招かれたのだ。
そのとき、少子化で廃校の危機にあった同町の島根県立隠岐島前高校を守りたいという海士町の人々の話を聞き、何とか協力したいと、2007年、同町の「高校魅力化プロデューサー」という肩書を得て島に移住。
そこで、地域資源を教材とし大人たちが一体となって子どもたちを育み、島全体を学びの場とするプロジェクトを展開。以来、島外から意欲ある生徒を募集する「島留学」に、日本全国、さらには海外からも多くの高校生が入学するようになった。現在同校では全校生徒約180名のうち、島留学による生徒が半数を占める。生徒たちは地域の人々や県外、海外から来る子どもたちと関わる中で多様な価値観や文化に触れ、世界を肌で知るようになった。
岩本氏は、2015年、海士町での取り組みを島根県全体に広めるため、「島根県教育魅力化特命官」に任命され、「しまね留学」をはじめとした魅力化事業を推進。島根県の公立高校へ県外から入学してくる子どもたちは、2016年には2010年の約3.5倍となった。関東・関西などの都市部から親子で一緒に移住する「教育移住」も増えている。前の学校でうまくいかなかったからではなく、少人数教育や地域活動、まちづくり活動に興味があって移住してくるのだ。
今、岩本氏は、2017年に設立した一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームの共同代表として、高校選びの新たな選択肢としての「地域みらい留学」を全国に展開している。
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